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東京地方裁判所 昭和40年(つ)2号 決定 1965年11月18日

請求人 三宅清

決  定 <請求人氏名略>

右請求人から、東京地方裁判所執行吏役場事務員高橋和行について公務員職権濫用の嫌疑ありとして、刑事訴訟法第二六二条第一項による付審判の請求があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件請求を棄却する。

理由

一  本件付審判請求の要旨は、「請求人は、昭和四〇年六月九日東京地方検察庁検察官に対し、東京地方裁判所執行吏役場執行吏代理熊谷岳雄、同役場事務員近藤理一及び同役場事務員高橋和行をそれぞれ公務員職権濫用、名誉毀損、虚偽公文書作成及び同行吏の各罪で告訴したのであるが、検察官は、同年一〇月一八日これらをいずれも犯罪の嫌疑なしとして不起訴処分に付し、右処分結果が同月二四日請求人に通知された。しかしながら、諸般の証拠によれば、右高橋和行は、昭和三七年一二月一〇日頃、東京地方裁判所執行吏役場において、時枝誠記に対する公務員職権濫用付審判請求事件の決定書の送達報告書を作成するに際し、その被疑者の氏名として、同事件の請求人である三宅清の氏名をことさらに記入し、もつて職権を濫用して、右送達報告書において請求人として取扱われるべき三宅清の権利を妨害したものであることが明らかである。従つて、請求人が、高橋和行と共謀したとして告訴した送達検閲者近藤理一及び送達者熊谷岳雄の各行為を、過失によるものであるとして犯罪の嫌疑なしとした検察官の不起訴処分は相当であるが、右高橋和行に対する同趣旨の理由による不起訴処分には不服がある。そこで、同人に対する公務員職権濫用事件を裁判所の審判に付することを求める。」というのである。

二  よつて、関係記録により検討してみると、時枝誠記に対する公務員職権濫用付審判請求事件の決定書の送達報告書(昭和三七年一二月一〇日付、時枝誠記を受送達者とするもの)の被疑者氏名欄に同事件の請求人である三宅清の氏名が記入されていること、右記入が高橋和行によりなされたものであることはいずれも請求人主張のとおりである。

ところで、刑法第一九三条(公務員職権濫用罪)は、他人にある行為を命じ、その必要があれば直接又は間接にこれを強制する権限があるような公務員を犯罪主体として予定しているものと解せられるところ、関係記録によれば、右高橋和行は、東京地方裁判所執行吏役場に単なる事務員として雇用されているものであり、刑事送達係として東京地方裁判所等の裁判所から送達すべき書類を受けとつて執行吏役場に持ち帰り、右書類に基いて送達報告書に送達書類の表示、受送達者氏名等所要事項を記入し、更に送達報告簿にこれをひかえるなどの執行吏役場の内部的機械的事務に従事しているにすぎないものであることが認められるのであるから、同人は刑法第一九三条にいう公務員としての身分を有しないものというべきである。しからば、請求人も認めているように、執行吏代理熊谷岳雄らとの共謀関係のないことが明らかな本件においては、高橋和行を公務員とし、その職権を濫用したものとして付審判を求める請求人の主張はその前提を欠くこととなる。(しかも、本件関係記録によれば、本件送達報告書には、付審判請求事件の請求人を表示する欄は存在しないし、表示すべき規定も存在しないのであるから、高橋和行が前示の如く、送達報告書の被疑者氏名欄に三宅清と記入したからといつて、そのため、請求人の、時枝誠記に対する公務員職権濫用付審判請求事件の請求人として取扱われるべき権利を妨害したものとはいえないし、又、右高橋の行為が請求人の主張する如く、高橋と三宅清、時枝誠記等の関係人あるいは東京地方検察庁検察官らが特別の関係にあるため、ことさらになされたものとの事情は少しも窺えず、単なる誤記にすぎない疑いが極めて強いのである。)

従つて、結局、本件付審判の請求はその理由がないこととなるから、刑事訴訟法第二六六条第一号により、主文のとおり決定する。

(裁判官 真野英一 外池泰治 堀内信明)

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